中村文学
『小さい頃は、周りから天才じゃないかって言われるぐらい勉強が出来る子だったんですよ。小学1年生までですが(笑)』ある雑誌のインタビューで中村文則氏は冗談交じりにこう語っていた。しかし、小学2年生になると人の話が聞けなくなった。自習はできるが人から教わる事ができなくなった。
高校生になると、学校に行けなくなり仮病で1カ月休んだり、教室を抜け出したりして成績はすごい悪かったそうだ。
そんな中村文則氏の書く中村文学は今多くの人を魅了し続けている。紛れもなく天才、奇才の書き手だと思う。
個人的な感想では映画などでよく出てくる超天才児が書いた文章のように感じる。少年、少女が持つどこまでも広がっていくような世界や可能性を、凄まじいまでの文章力で表しているというか。とても子供が書ける文章ではないのだが、なぜか読むたびに超天才児というフレーズが頭に浮かぶ。
最新刊 “ 逃亡者 ”
そんな中村文則氏の最新刊『逃亡者』、没頭しつつページをめくり、またページを戻るという動作を今年一番繰り返した本かもしれない。言葉の深みに囚われ先に進むのを中断し、ついつい読み直したくなる表現が多いのだ。今、深みから抜け出せず2度目を読み返してる途中。
信仰、戦争、愛ーー。
この小説には、
その全てが書かれている。
ウィルスは人を断絶させるが、言葉で人は再び繋がる
いつか書くと決めていたーー中村文則
そう帯に書かれていた通り、様々な視点から世界への関わり方を掘り下げていた。冒頭は中村文学お馴染みの謎めいたBなる人物と、フリージャーナリストのやり取りから入る。第二次大戦下、“熱狂“ “悪魔の楽器“と呼ばれたトランペットの行方を巡って物語は始まる。あらゆる理不尽が交錯する中、それを隠し持ち逃亡する男にはある女性と交わした【約束】があった…
『まあいい。
ゲームみたいに少し楽しむことにしようか。』
〜〜中略〜〜
【 1週間後、
君が生きている確率は4%だ 】
もうこの辺のセリフだけで中村文則氏の作品が好きな方ならゾクゾクするはずだ。
それからある程度の仄暗さや歪みを感じさせつつ描かれる純愛の部分もやはり毎度唸らされる。2度目を読み返している今も、展開をわかっているのに巧みな表現に、夢中にさせられている。今の暗い世の中で読むのはもしかしたら気持ちが落ちてしまう方もいるかもしれないですが、本当にオススメです。
【逃亡者】著者 : 中村文則 / 2020.04.16発売
✔️ 小説が好き過ぎるんです…