【ステイホームの密室殺人】コロナ時代を反映したミステリー小説が面白い

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コロナ時代で感じた事

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コロナ時代――本当に色々な生活習慣が変わり、そしてその習慣が定着しつつある。人は一定の距離を保ち、集団を避けるよう要請され、仕事も自宅でやる事が増えた。初めは違和感しかなかったコンビニや飲食店の透明ビニールでの仕切りも今や当たり前の光景である。
当時、多くの人が姿を消した街で変わらず仕事に励む人たちもいた。自分もその一人だった。だから町の様子を細かく記憶している。それこそゴーストタウンのように見える日すらあった町で何を思ったか……、細かくは覚えてないが漠然と感じていたのは“将来への不安”だった。その不安を払拭するために強盗を働く人がいるのではないか? 将来どころでなくコロナ禍で食い詰めてしまった人であればすぐにでも奪うという選択をするかもしれない。自分の周りの大切な人を襲うかもしれない、そんな風に思った事もあった。

誉田哲也最新作ミステリー小説【もう、聞こえない】感想!  

負の連鎖

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マスク詐欺・転売、配送に関するフィッシングメール、給付金詐欺、ひったくり、窃盗団など多くの悪意に塗れ続けたからか、現実的な距離だけでなく心の距離をもうまく測れなくなった。近づく人間すべてが悪人に見え、一番近くにいるちゃまの言葉にすら悪意を感じる日があり衝突した事もあったのだから俺自身も正常ではなかったと思う。それが今、まだ不完全とはいえ少しずつ普段の生活に近づきつつある。それは喜ばしい。距離を気にしながらもお出かけしたり、自分の好みの食事もとれるようになった。それから出版業界が軒並み業績がいいらしい。本好きの俺としては嬉しい限りだ。予算があればその分良書もたくさん生まれるだろう。

ちょうど今日のお天気雨のように、様々な事がコロコロ変わるがいい方向に、と願わずにはいられない。前置きが長くなってしまったが、コロナ禍で色々な事が大きく変わった。時代に合わせてミステリーも変わる。こんな完全犯罪を考える人がいずれ出てきそうだな、まさにその部分を切り取った新しい短編ミステリー。時代を切り取った手口はミステリー好きなら俺も考えたわーという手口もあったりするのでおススメ。

 

ステイホームの密室殺人短編集ベスト3

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5人の作家による書下ろしで、個人的に面白かった3篇を紹介したい。

 

1【織守きょうや氏 夜明けが遠すぎる】

突然のアルバイト先の休業で困窮した主人公。もともと小悪党だった主人公は過去のしがらみで恐喝されていたのだが、いよいよお金を絶たれ切羽詰まってくる。それを舎弟と話している最中に、舎弟からあっけらかんと「殺しましょう」と提案され、それに乗る。どこかに違和感を残しつつもオンライン飲み会でのアリバイ工作を駆使し、この窮地を乗り越えていこうとする。

オンライン飲み会というものが定着したコロナ時代だからこそのアリバイだったり、アルバイト先からのお金の配給を絶たれたり、正常な感覚を失っている主人公と舎弟分といい、コロナ時代をうまく切り取っている。推理物やホラー物を書かれている筆者ならではの世界観で、ある種の不気味さも漂っている。読んでいてラストシーンは想像できたが、不気味さも含めすっきりできるのがいい。

 

2【斜線堂有紀 Stay sweet, sweet home】

4月、5月、6月あたりは血眼になって薬局に通い消毒液やマスクなどを買い求める方も多かったが、「コロナ」に対する接し方は家族間でも温度差があったのではないだろうか? 手洗いうがいだけでなく部屋中を殺菌したりそれこそ人それぞれだったと思う。それまで仲睦まじく暮らしていた家族も毎日顔を突き合わせるうちにギクシャクし、うまくいかなくなったという話もあった。まさにそこを土台に置いた物語。

そして友人(恋人のような関係のようだが)同士、オンラインで会話をしている最中に自宅で事件OR事故が起こる。そしてその手法もオンラインというコロナ時代ならではのモノ。現在進行形で起きる事件OR事故と、それをオンライン通話をしながら謎といていくエンタメ性にも富んでいる。個人的にも「コロナ」を通して学んだのは親しき仲だからこそじっくり話し合うということ。その辺りの問題にもうまく触れていて、まさにコロナ時代のミステリーという感じ。

 

3【渡辺浩弐 世界最大の密室】

コロナ時代の無人の町を切り取った物語。お金にも住居にも何一つ不自由なく暮らしていた男が、無人の町を彷徨い思う事を綴っていく。もともと引きこもり傾向にあった男は、コロナ後の引きこもり生活に関しても感じ方が他の人とはまったく異なる。ミステリー要素もあるが、どちらかというと世界観を楽しむ作品。まるで世にも奇妙な物語を見ているような独特の雰囲気が個人的には面白かった。

コロナ時、外に出てボーっとした経験がある方は共感するかもしれないが、世界が180度変わってしまったような感覚、自分がこれまで信じていた世界はマヤカシなのではないか? というパラレルワールドに迷い込んでしまったような感覚の描写に惹き込まれる。

 

コロナ時代をエンタメに

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想像するに締め切りの時間も短かったはずだ。締め切りのために急いだのかなという雰囲気があるが全体的に面白い。時間がかけられるなら、という思いも見え隠れする。コロナならではという意味ではウーバーイーツなどの宅配の若者とタッグを組んでターゲットの詳細を仕入れる窃盗団や、緊急事態宣言後も遊び歩く芸能人に対しての恐喝物や、本書でも出てくるが行き過ぎた自粛警察による事件などそういった物語もありかと思う。

コロナ時代をどうせだからエンタメとして楽しもうというのは大賛成だ。ちなみに帯にも書いてあるが第2弾が9月に刊行されるようなので、そちらも読んでみたいと思っている。